『防衛』
己の命に代えても【ぼくちゃん】は守らなければならない。
ダグルは隣にいる兵と視線だけで頷き合い、剣を抜いた。
彼はこの6名の中で一番脚が早く、そこそこ剛力でもある。最初に後の5名が決死の攻撃をかければ、その間にそれなりの距離は取れるだろう。
「もう一度だけ言う。
“それ”を渡してくれれば貴殿らに剣を振るうことはない。
無闇な諍いは好まんのだ」
向こうから仕掛けてきたくせに何たる言いよう。
ダグルたちは冷静に激怒していた。
「断る。
我々は主君の命令で彼を守っている。
その命を違えることなど、この命をかけてあり得ない!」
「では交渉決裂だな。残念だよ」
抑えられていた殺気が溢れ、第三騎士団の分隊30数名が一斉に剣を抜いて近寄ってくる。
まずはダグルとやり取りしていた騎士が振りかぶり、攻撃してきた。
ダグルの剣がそれを捉え受け流す。
そして二合三合と剣を交えてお互いの実力を計った上で次の段階、剣戟が始まった。
この間僅か。
だが【ぼくちゃん】を抱えた兵士は他のものに守られながら撤退を始めていた。だが多勢に無勢、次第に囲まれ劣勢になっていく。
ひとりふたりと倒れていく【ぼくちゃん】の護衛たち。
ダグルも押されはじめていてかすり傷が増えていった。
『しまった!』
反撃を焦ったダグルは大振りし、相手の剣が迫ってくる。
もう受け止める間もない、覚悟を決めた一瞬、思い浮かんだのは【ぼくちゃん】のこと。
次の瞬間、剣を受けるのはダグルの身体だったはずが、目の前の騎士の剣が腕ごと断ち切られ、飛んできた剣先をギリギリのタイミングで払いのけた。
そして同じ攻撃が【ぼくちゃん】を取り巻いていた騎士たちにも襲いかかる。
「遅くなってしまったわ。もう大丈夫よ」
「キュ、まま!」