『【ぼくちゃん】のはじめてのおしごと』
「この敷地にあなたたちの住処となる建物を建てる話が出てるけど、考えてみると見かけはちゃっちいけど設備はゲルの方がいいと思うの。
今はトイレと洗面は各ゲルにあるけど、シャワーぐらいつけてもいいし……」
「風呂場があるんです。必要ないですよ」
もう見てきたものがいるようだ。
それぞれの個室も居心地よく調えられており、リビングとは渡り廊下で繋がっている。
オフェーリアの造形魔法ではなんでもござれなのでそれに慣れてしまったダグルたちは平然としているが、離宮の女官だけでなく話を聞いて見にきた王宮の侍従や女官たちも興味津々である。
「キュイィ」
「お待たせ、【ぼくちゃん】」
ずっと大人しくそばにいた【ぼくちゃん】が話が終わったのを感じて手を繋いできた。
ダルメリアたち女官も近くに控えている。
【ぼくちゃん】は離宮に部屋をもらい、オフェーリアと共に暮らすことになった。
彼は“まま”との生活をとても楽しみにしていた。
オフェーリアもまた同じ気持ちでいて、午前中は【ぼくちゃん】を連れてログハウスに篭り調薬することが多かった。
マティアスは王宮で溜まった書類仕事に精を出している。それにもちろん閲兵も欠かさず、己の鍛錬も行なっていた。
「そう、【ぼくちゃん】上手よ」
【ぼくちゃん】は今、オフェーリアの隣で小さな乳鉢に乾燥させた薬草(葉柄だけでなく葉脈も取り除かれている。【ぼくちゃん】は意外に器用で、小さな手で慎重に外していた)を入れて乳棒でゆっくりと粉状にしている。
教えたオフェーリアもこれほど器用にこなすとは思っていなかったのでびっくりしていた。
「次はこの線までお水を入れてね」
そのまま火にかけられるビーカーの、下から何番目かの線を指差すと魔法水の入った水差しを手渡した。
「キュ」
両手で水差しを持ちビーカーに顔を近づける。
そしてゆっくりと魔法水を注ぎ、ぴったり赤い線で止めた。
「すごいわ【ぼくちゃん】偉いわよ」
オフェーリアに手離しで褒められて【ぼくちゃん】はとても嬉しそうだ。