『老害の最期』
「とりあえず、立ってちょうだい。
そしてどこか、お話しの出来るところに移りましょう」
「ええ、ではあちらの茶店などいかがです?」
どこまでも私心が先にくる、残念な男である。
「私は構わないけど……
帰りは荷物が多いかもよ?」
何を誤解しているのか喜んでいるクロードに手をとられて、オフェーリアは小洒落た茶店に入っていった。
「まずは改めて、久しぶりねクロード」
奥まった場所に席を決めて腰を下ろし、再会を喜び合う。
「息災でおられた様子。
まずは重畳ですな」
「今回はしばらく滞在するつもりよ。
ダンジョンにももぐるし、採取もしたいの」
「それはそれは」
クロードは目を細めて笑顔を見せている。
「その前に、クロードにお願いがあるの。
もう憲兵隊と防衛隊には渡してあるのだけど、新しいポーションを持ってきたのよ。
クロードにはそれを鑑定して、値をつけて欲しいの」
「わかりました。
その新しいポーション、楽しみですね」
「ところで、あの糞爺たちはもう残っていないのね?」
「ええ、老害どもはpreciousがこの地を発って間無しに皆、この世を去りました。
中でも、前々ギルド長だった爺は怒り狂った冒険者たちに嬲り殺しにされ、いやー、溜飲が下がりました」
オフェーリアが前回この町に滞在した時、彼女が提供するポーションの利権を狙って煩く言ってきた、当時この町を実質的に治めていた老人たちがいた。
それに辟易したオフェーリアが突然出奔し、ポーションの供給を断たれた冒険者たちは激怒した。
当然その怒りは元凶である老人たちに向く。
4名いた彼らは相次いで病に倒れ(ということになっている)最後のひとりはダンジョンの中で、痛ましい姿で発見されたのだ。
「なのでこの度は思うように卸していただいてよろしいのですよ」
再び、にっこりと笑ったクロードの胸の中には別の思いもある。
実は前年の秋ごろから、ダンジョンの魔獣の動きが激しくなってきているのだ。
この冬はダンジョンから溢れた魔獣が森に住み着き、危険度がぐっと上がってしまっていた。
そこにポーションが大量に流通したら、冒険者たちは怪我を恐れることなく討伐に明け暮れることができるだろう。
クロードは早く新製品を見たくてうずうずしていた。