『新しい拠点』
ダグルたちのゲルはオフェーリアのログハウスと同じ区域に設置された。
そこは王宮の敷地内の森が拓けた広場のようになっていて古いが井戸もある。
ここは昔建物が建っていたらしく、それなら現状も納得であった。
「ここなら普段の訓練もできるし、裏の森で【ぼくちゃん】が遊ぶこともできそうね。
さて、ゲルを設置しましょう」
今回ダンジョン島から【ぼくちゃん】専属としてやってきたのはダグルが率いる分隊13名だ。
彼らは一番最初に【ぼくちゃん】に助けてもらった兵士の中から選ばれて、今までずっと側にいて面倒を見ていた。
【ぼくちゃん】が冒険者に襲われた時に救助にあたった連中でもある。
その彼らはアムリタで【ぼくちゃん】の腕が再生したことを我が事のように喜んで、人目も憚らず大泣きしたものもいたのだ。
「まずは皆が集まれる食堂とキッチンのゲル。
それぞれの個室用ゲルが14とお風呂用、それと作業用に一ついるかしら」
あっという間に17のゲルが設置され、中には必要最低限の備品が置かれていく。
「兵士としての支給品はすぐに支給されるはずよ。色々足りないものもあるだろうけどその都度解決していきましょう」
整列したダグルたちはオフェーリアと【ぼくちゃん】に膝を折り今まで以上に忠誠を誓った。
この時から【ぼくちゃん】のための護衛隊が正式に発足したのだ。
「それと生活用品を揃えなきゃならないからこれ、支度金ね」
オフェーリアから渡された小さな布袋にはそれぞれ金貨が3枚ずつ入っていた。
これだけあれば両親と子供3人がひと月以上楽に暮らすことができる金額だ。
「ちょっとフェリア様!
いくらなんでもこれはもらいすぎです!」
「そんなことないわよ。
だってあなたたちは島での暮らしを捨ててここに来てくれたんでしょう?
あなたたちの生活基盤がずっと前から島にあったことを聞いているわ」
ダグルをはじめとするこの分隊は、異常が起きてから本島から派遣された兵士ではなく、以前からあの島にいた兵士なのだ。
そして彼らにはもう、本島に拠点というべきものがなかった。