『離宮入城』
数ヶ月ぶりに離宮の敷地内に降り立ったオフェーリアの横で【ぼくちゃん】は目を丸くしていた。
「ではフェリア、【ぼくちゃん】
俺は本宮に顔を出してくる。
ふたりはこちらでゆっくりしていてくれ」
旅装を解いたマティアスは本宮から来た側近たちを引き連れ足早に離宮を後にする。
オフェーリアは平然と見送っているが【ぼくちゃん】はどこか寂しそうだ。
そんななかひとりの女官が近づいてくる。
彼女は作法通り膝を折って挨拶した。
「ご無事の帰還、おめでたく存じます」
「ありがとう、ダルメリア。
今日からまた世話になります。
それと彼は【ぼくちゃん】。私たちの家族です」
離宮にその仕事を含め、生活の場を持つ彼女やその下の者たちにも【ぼくちゃん】の姿は異端に映っただろう。
しかし女主人の言葉は絶対だ。
だがそんなダルメリアも、【ぼくちゃん】の世話係としてやってきたむさ苦しい男たちには閉口していた。特にこの離宮は今はないが後宮に値するもの。本来王以外男子禁制であるこの場に【ぼくちゃん】はともかくとして彼らをどう扱ってよいのか頭を悩ましていた。
「ではこうしたらどうかしら」
片やオフェーリアはこの問題点にちゃんと気づいていて、もうひとりの当事者であるマティアスがまったく準備していなかったことに対して知恵を出す。
これはまったくの屁理屈と言えることなのだが、“離宮が男子禁制(【ぼくちゃん】に関しては成人前ということでノーカン)”なのなら、離宮内に入れなければよいということで、敷地内にゲルで居住地を作ればよい、ということにした。
何しろオフェーリアのゲルは下手な住居よりも快適なのだ。ダグルたちはむしろこの方がよいと喜んだのだった。