『シフォンケーキ』
翌朝、【ぼくちゃん】の朝の支度のためゲルに入ってきたダグルの目は現在、驚愕に見開かれている。
「これは……」
ようやく絞り出した言葉はそれだけ。
立ちすくむダグルはオフェーリアの姿を見て何が起きたのか理解したがそれでも信じられない気持ちだ。
いや、王の妃が比類なき大魔法使いだとは以前から知っていた。
それでも一度切断された腕が再生するなど、今この目で見ていても驚愕するしかない。
「そうなの。
ようやく完成した【アムリタ】で【ぼくちゃん】を元に戻すことができたの。
ダグル、これからも【ぼくちゃん】のことお願いね」
「ダグルとその小隊には正式に【ぼくちゃん】付きの守役に就いてもらう。
辞令は城に帰ってからになるが、これからもよろしく頼む」
マティアスとフェリアの“養子”とも言うべき【ぼくちゃん】の守役を正式に拝命したダグルは深く首を垂れた。
それからダンジョン村は大騒ぎになった。
みんなのアイドル【ぼくちゃん】の、まさかの腕の再生だ。
以前に【ぼくちゃん】に助けられたことのある冒険者もともに祝福している。
マティアスは急遽祝宴を開くことにし、その準備を命令すると、先に3人だけのお祝いをするためにゲルに戻った。そこではオフェーリアがケーキを用意している。
……それほど甘いものが好きでないマティアスには甘くないビスケットやナッツ類が出された。
「【ぼくちゃん】おめでとう。
これからは以前のように動けるからね」
「キュ」
【ぼくちゃん】が嬉しそうに頷いた。
その手にはカトラリーが握られている。
「まあ、もう待ちきれなさそうね。
いいわよ。いただきましょう」
オフェーリアがこのときのために作ったのは【シフォンケーキ】だ。
それにアイスクリームとベリーのジャム、そして飴細工のドラゴンを添えた。
他には特大のプリン。
こちらにはたっぷりの生クリームを添えて。
【ぼくちゃん】はシフォンケーキにナイフを入れ、アイスクリームをすくってケーキにのせると、大きめのそれをひと口でパクリと食べた。
「ん〜、ん〜!!!」
カトラリーを手離して、その両手で頬を押さえて悶えている。
「おいしい?よかったね」