『進化?』
「まま……ぱ、ぱ」
「え?【ぼくちゃん】?」
「【ぼくちゃん】喋ったのか?」
喋ったと言うにはとても拙いものだが、今まで鳴き声だけだった【ぼくちゃん】が初めて人語を発音したのだ。
「まま、ぱ、ぱ」
半濁音が少し発音しにくそうだが【ぼくちゃん】は一生懸命ふたりに呼びかける。
その様は左手の再生と相まってふたりの感情を大きく揺さぶった。
オフェーリアなど喜びのあまり涙が溢れて大洪水だ。
「【ぼくちゃん】よくがんばったねぇ。
『まま』と『ぱ、ぱ』も上手よ」
「まま、まま、まま」
【ぼくちゃん】は大好きなママに抱きしめられて、もうすっかり先ほどの痛みのことは忘れてしまっていた。
今は『まま』と『ぱぱ』と一緒にいられることが嬉しい。
ひとしきり感激を分かち合って、3人は夕食を摂ることにした。
本来今夜はオフェーリアが作り置きして、専用のアイテムボックスにストックしてある料理を食べることになっていた。
だがお祝いなのだ。
まずメインは安定の【ぼくちゃん】の大好物、チーズinハンバーグだ。
もちろん目玉焼きがのってトマトソースをかけたもの。これはみじん切り状態のトマトが残っていて、【ぼくちゃん】はその食感が大好きなのだ。
「もう今夜は【ぼくちゃん】の好きなものを好きなだけ食べていいわ。
お肉ばっかりでも、ママはうるさいこと言わないから」
スープは玉ねぎの入ったコンソメスープ。
玉ねぎの甘みが加わっておいしい。
野菜をあまり好まない男たちでも好んで食べる、ほうれん草とベーコンとコーンのバター炒め。
それに先日大量に作っていたゆで玉子メインのポテトサラダ。これはボウルごとテーブルに出した。
パンはいつものロールパンだ。
「ごめんね。
【アムリタ】が完成して、すっかり舞い上がっちゃって、お祝いの準備がすっ飛んでいたわ。
明日はおいしいデザートでお祝いしようね」
【ぼくちゃん】がコクコクと頷いている。
「それにしても驚いたな」
左手がつかえるようになって興奮して寝付けなかった【ぼくちゃん】をようやく寝かし付けて、今オフェーリアとマティアスは軽く寝酒を嗜んでいる。
マティアスにとって左腕の再生も驚くものだったが、何よりも【ぼくちゃん】が発した『まま』『ぱ、ぱ』はそれを凌駕している。
「そうなのよね。
あの子は賢いから私たちの言葉をかなりの量理解していたと思うの。
でも鳴き声で感情を伝えたりしていたけど、まさか発音できるなんて。
これはおそらく、発達と言うより進化と言っても良いと思う」
「進化?」
「そう。
これは推測だけど【アムリタ】を作る時に注ぎ込んだ魔力が【ぼくちゃん】自体に作用して進化したのよ。
ほら、魔獣は進化して上位種になるでしょう?」
どちらにしても喜ばしいことだ。