『また、雪』
「なるほど」
わざわざこんな辺境に行商にやってくるメリットがあったということを聞いて納得した。
オフェーリアは休むことを伝えてゲルに引っ込む。
できればマティアスと【ぼくちゃん】の元に戻りたいのだが、こんな辺鄙な街道の真っ只中、何が起きるかわかったものではない。
そんなときに留守にしていて反応しなければ不審がられても仕方がない。
なので今夜はここで休むことにする。
ちなみに一行の馬車や馬も結界内にあるのでもし襲撃を受けても安心だ。
「はぁ、サラダの下拵えでもしよう」
大量のゆで卵と格闘した昨夜、入浴ののち就寝したのだがそれほど寝た気がしないうちにゲルへの干渉に目が覚めた。
「ん〜まだ早いのに、なに?」
傍の懐中時計を見て寝返りをうった。
そしてそのままガウンを羽織り出入り口に向かう。
垂れ布を捲るとひんやりとした空気が流れ込んで来た。
そしてそこにはミュールが立っている。
「どうしたの?って、雪?!」
明け方の薄暗がりの中ミュールの向こう側、結界の外に深々と雪が降り注いでいる。
それは見ている間にも勢いを増していて、あっという間に周りの景色が見えなくなった。
「またなの〜」
「フェリアさん、こんな状況なので少し様子を見たい。悪いな」
いくらオフェーリアでも天候に文句は言えない。
だがこう続くと呪われているのかと思ってしまいそうになる。
「わかったわ。すぐに着替えていきます」
雪、雪、雪。
結界の中では気にならなかったが外気は冷えているのだろう、あっという間に雪が積もっていく。
「ああ、また足留め?
もういい加減にしてほしい」
「今年は特に雪が多いな。
こんなのは無いことは無いが珍しい。
俺も前に一度だけぶつかったことがある」
「そうなんだ。
珍しいけど無いわけじゃないんだ」
「そりゃあ、北国だからな」
しかし雪の中の野営は本来は厳しいものがある。