『行商』
ミュールたちと同行することになったオフェーリアは、彼が行商するために立ち寄った村々で情報を仕入れていた。
その結果【ツブネラアロン】は非常に局地的に生育するもので今いる村の民たちは誰一人知っているものがいなかったのだ。
「他所の地域のことなんてそんなものかもしれないわね」
オフェーリアは思わず呟いた。
「このくらい辺境では自分たちの村だけが一生を過ごす世界なんだ。
だからよっぽどのことがない限り他所には行かないし、関わったりしない」
「なるほど、だから【ツブネラアロン】の情報が広がらなかったわけね」
「ああ、それとおそらく生息地に一番近い村では情報を隠匿している可能性もある。
様子を見ながら攻め方を考えた方がいいかもな」
一応オフェーリアは自分の持っている地図とミュールのものを擦り合わせ、【ツブネラアロン】の生息地に一番近い村を選別していた。
ちなみに行商人にとって命の次に大切だろう地図を見せてもらう代わりに、オフェーリアは救助(芝居だったが)してもらったことや同行など諸々の礼として【結界石】を8個(魔石に魔力を最大限付与した特別製、おそらくミュールの一生分くらいは保つ)を進呈した。
もちろんミュールは恐縮しながらも大喜びだ。
「でも行商ってボランティアみたいなものね」
「これでもそれなりに利益は出るんだよ。
それにこちらが買い取った品も結構化けるんだ」
オフェーリアにはピンとこないが冬の間の手仕事だろう織物や刺繍、木彫りの加工品などを買い取っているようだ。
それにこのあたりの山地には鉱山があるようで、細々とだが川で砂金が取れるそうだ。
それなら金山開発でもしたらよいと思うのだが、その資金、先立つものがないらしい。
「そうね、砂金ならちりも積もれば云々と言うようにあなたたちにも利益になるわね」