『学士フェリア』
「一番近い村と野営、どちらがいい?」
「できれば宿屋で休ませた方がいいだろうが……」
ミュールとアルフが話し合っている間、あとの2人の冒険者がオフェーリアの様子を見ている。
「あの……」
お茶を飲み終わったオフェーリアがカップを返して、上目遣いで冒険者を見上げた。
「助けてくださってありがとうございます」
「話して大丈夫かい?無理しなくていいよ」
「そうだよ。お茶、もう一杯どう?」
毛皮の縁取りのついたフードはかぶったままだが、その顔は目を離すことが困難なほど整っている。
「いえ、十分暖まりました」
後ろの荷物にもたれかかっていたオフェーリアは姿勢を正して座り直した。
「あの、本当に助かりました。
これからどうしたらよいのか……動く気力も湧かずに座り込んでいたらだんだんと眠くなっていって」
「おいおい、それはかなりヤバいだろう」
止まったついでに馬を休ませていたミュールたちが後ろの荷台でのやり取りに気づいてやってきた。
「よかった。大分顔色も良くなったね」
「この馬車の持ち主の方ですか?
助けていただいてありがとうございます。
私はビドー大学院の学士、フェリアと申します」
「何と学者さんかね!
失礼だが子供かと思いましたよ」
ミュールが真面目にびっくりしている。
「まぁ……こんななりなので、よく間違われます」
オフェーリアは苦笑してフードを下ろした。
そして乱れた髪をかき上げると特徴的な耳が現れる。
「エ、エルフ」
「!!」
「ふぁ〜」
「初めて見た……」
どちらにしてもいつもの反応である。
しばらくして我に返ったミュールが、なぜこんなところにいたのかを聞いてきた。
「実は私、研究のためある素材を探していまして。
今日はこの先にある村で宿をとろうと馬を走らせていたのです。
それが突然馬が暴れ出して振り落とされて……あとはご存知の通りです。
落馬した時の怪我はポーションを飲んで治しました」
「それは災難だったな」
「なるほど、それで地面が荒れていたのか」
どうやらオフェーリアが施した偽装はバレていないようだ。