『救助』
馬が止まり切る前に御者台にいた冒険者アルフが飛び降り、レンガ色の塊に駆け寄った。
そして俯く人物?の肩だろう場所を掴んで揺すってみる。
その人物は雪の残る地面に直に座り込み項垂れている。その姿はまるで丸まった獣のようだった。
「なぁ、あんた、無事か?」
その言葉に反応して、ゆっくりと顔をあげた人物を見てアルフは息を呑んだ。
小さな顔はその人物の小ささを表している。
そして極端に悪い顔色の中でもその紫色の瞳は美しかった。
「あ……」
「っ!!
もう大丈夫だ。すぐに馬車に運んでやるからな!」
その時にはすぐそばに荷馬車が止まっていて、御者の他に後ろの荷台の2人も降りてきていた。
「ヒト?こんなところにひとりで一体?」
「大変だ!すぐに荷台に運んで下さい」
我に帰ったミュールがすぐに荷馬車に駆け寄り荷台に飛び乗った。
すでにいっぱいに積まれ、ギリギリ2人乗るスペースしかなかったところを、目につく荷物を肩掛け鞄型のアイテムバッグに収納していく。そうして場所を開けたミュールは毛皮や毛布を出してその人物を待った。
「このローブは魔導具かもしれない、脱がさない方がいいだろう。このまま毛布で包むぞ」
多少湿り気味だが濡れていないことを確かめて毛皮の上に降ろす。
荷台に乗っていた冒険者のひとりが保温水筒から熱いお茶をカップに注いでその人物に渡した。
「ありがと」
小さくて高い声。それだけでこの人物が女子だということに気づいた。
だが今、この場でその事に触れるものはいない。
遭難者?を偽装したオフェーリアは馬車がやってくるのを待った。
半ば意識を失った状態を装って、親切な行商人と冒険者に救助され、まんまと荷馬車に乗り込む事に成功したのだ。