『行商人ミュール』
「うわぁ、真っ白!」
ようやく雪が止んで、オフェーリアの旅は再開された。
北に向かうにしたがって上空から見る風景が真冬めいてくる。
もうこのあたりは、まだすっかり冬ですっぽりと雪に包まれていた。
「それでも街道だけは雪かきしてあるのね。
そうでなきゃどうやってきたんだ、と不審に思われちゃうわね」
いや、少女?のひとり旅など不審以外の何ものでもないだろう。
これから、ただでさえ閉鎖的な村を訪問するのだが、大丈夫なのだろうか。
「う〜ん……
あれ?あれは馬車?荷馬車っぽいわね?!」
上空から見下ろしているとポツンとひとつ動く点がある。
よく見ようと高度を下げるとどうやら幌付きの荷馬車のようだ。
「ようやくここまで来たなぁ」
そう呟いたのはこの幌馬車の持ち主、行商人のミュールだ。
彼の幌馬車は行商だけでなく、少数だが乗客を乗せることができ、今はそこには護衛の冒険者が2人乗っている。そして自らの隣にも1人、彼らは3人組のパーティーだ。
「辺境北部ってこれが普通なのか?」
「元々春の訪れが遅い場所なんだが今年は特に遅いね。特に戻り冬みたいな、この間の寒波は参ったよ」
ミュールは幸運にも宿泊していた村でやり過ごすことができ事なきを得た。
そしてたまたま奥の村落での依頼を受け向かっていた3人と知り合い、護衛することを条件に乗せていくことになったのだ。
「しかしこんなんじゃ……」
冒険者の男が外套の前を合わせて寒さに震える。
ミュールは魔道具のカイロを懐と腰に入れているのでそこまで寒さを感じないが、顔など外気に触れるところは冷たくなっている。
「おい、あそこ、あれ……人じゃないか?!」
まだかなり距離があったが、街道の縁、雪の残る場所にレンガ色の塊が座っているように見える。
冒険者にそう言われて目を凝らしてみると、次の瞬間ミュールは馬に鞭を入れていた。
「うぉう、なんだー!?」
急に馬車が速度をあげた事情がわからない荷台の2人が驚いて叫んでいる。