『新製品』
翌朝、ずっとうちに滞在して欲しいと泣き落とそうとするアリシアをなだめて、オフェーリアはフランシスと共に家を出た。
「すみません、フェリア様。
アリシアがあんなに煩く言うなんて、思ってもみませんでした」
「ううん、アリシアの気持ち、わかるから」
10年前、アリシアには挨拶ひとつなしに姿を消した。
彼女は今回もそれを恐れているのだ。
「ちょっとダンジョンとか行くと思うけど、しばらくはこの町で活動すると思う」
今回は下層に生息している、ある植物を採取したいと思っているのだ。
これは1日や2日で出来るものではない。
「それに、それなりの数のポーションを卸さなきゃダメでしょう?
今夜から量産するつもりだよ」
そう、フランシスの家の敷地にオフェーリアの“ウッドハウス”を出す事は出来ない。
だがダルタンの家なら可能なようだ。
「あの、フェリア様。
うちはポーションだけではなくて、傷薬なんかも欲しいのですが」
「わかってるわよ。
それと値は張るけど、新製品もあるの」
朝の人通りの多い表通りで、フランシスは突然立ち止まった。
不審に思って振り向いたオフェーリアを睨みつけている。
「フェリア様、あなたは……
いや、こんなところでする話ではないですね。
今朝は商業ギルドに直行するつもりでしたが、先に詰所に向かいます」
どうやら眠れる獅子を起こしてしまったらしい。
「じじゃーん!
このポーションが、私が山の中に住んでまで採取した薬草を使って作ったものなのです!
その効果は抜群!
四肢切断も直後ならくっつきますよ!」
「おおぉ!」
「マジか!マジなのか?!」
憲兵隊の詰所で披露したポーションは、いつもの青色ではなくピンク色をしている。
「こればっかりは目の前で見てもらうしかないのだけれど、そうそう都合よく怪我人がいるはずもないわよね。
冒険者ギルドにでも声をかけておけばそのうち効果を確かめることができるんじゃない?」
四肢切断の大怪我なんて、そうそうあるものではない。
だがもしもその時この特殊なポーションがあれば、その冒険者は引退せずにすむかもしれないのだ。
「これをここと防衛隊と、冒険者と商業の各ギルドにサンプルとして置いておこうと思うの」
おそらくその結果が出るのは、冒険者ギルドが一番早いだろうと思われる。