『昔話』
あれから暴風雪は5日続いて収まった。
それでも雪は降り続く。
「はぁ、もう少しの我慢かしらね」
いくら大陸の最北部の辺境でも、本来ならとっくに春を迎えているはずなのに、真冬でもないほどの厳寒が続いている。
「結界越しに見たところだが雪の質が変わってきた。そろそろこの大雪害から抜けられそうだ」
「そうなの?」
「ああ、今まではそうだった。
水分を多く含んだ雪は気温が上がってきた標なんだ。ただ……」
「ただ?」
「この質の雪が降った後にまた気温が下がったら大惨事だ」
オフェーリアには祈ることしかできない。
「儂が子供の頃爺様に聞いたことがある」
オフェーリアは今、健康に問題のない老人たちが昼の間集まっている部屋にいる。
その中の最年長と見える老爺が突然口を開いた。
「爺様は若い頃冒険者だったそうだ。
その爺様が国中が凍るような大寒波があったことを教えてくれた。
ちょうど今と似通っているのではと儂は思っている。
その時はまだこの町もこれほどの規模ではなかったようで、被害は甚大だったそうだ」
「そんなことがあったのか……」
それなりに長生きしている老爺でも知らなかった話のようだ。
「その時はどのくらいの住人が助かったのかしら?」
「元々が寒冷地なわけで昔から家は頑丈に作られていたらしい。
薪も備蓄がなくなったら家具や床板まで剥がして燃やしていたそうだ」
「じゃあ今もひょっとしたら」
「ああ、十中八九そうやって凌いでおるだろうな」
この頃になると発熱していた門番の兵士たちが回復してゲルから出てくるようになっていた。
それで行政区の詳しい話を聞くことができた。
特に隊長はあちらに知人がいるそうで、行政区の動きを知っていた。