『雷』
いつしか結界への干渉はなくなって、次はよじ登り始めた。
それでも垂直の見えない壁はある程度で挑戦者たちを退ける。
そんなことを繰り返すうちにまた雪の勢いが増してきた。
「どうするんだ、アレ」
隙間から覗いているジョーンズは正しい答えを知りたそうだ。
「あのまま放っておいたら?
拙いと思ったら移動するだろうし、まぁもしものことがあっても私たちのせいじゃないし。
そもそも開口部に板を打ちつけ結界で覆っているのだもの、その時点で諦めて移動して欲しいわ」
実は彼らには命を先延ばしにする手段がある。
それは雪洞を掘ることだ。ただここの通りは広すぎる。もっと狭い路地で雪洞を作り、その中にテントを設置すればある程度なら凌げるはずだ。
「もうそろそろ音をあげるでしょう。
正規の兵士ならともかく傭兵団なんて連中、まして押し入ろうとする連中なんて何をしでかすかわかったもんじゃないわよ」
「ああ、俺もそう思う」
傭兵団は居座ることを選んだようだ。
オフェーリアたちは無視を決め込み、発熱した老人たちやジョーンズの同僚たちの看病に精を出していた。
そんななか、中庭の上空がフラッシュして遠くでゴロゴロと低い音が鳴り響く。
「雪雷ね。荒れるわよ」
オフェーリアの予測通り次第に風雪が強くなり、また1m先も見通せなくなって、ジョーンズは外の傭兵団を見張ることをやめた。
それよりも皆に充分な食事を与え、部屋の温度を保つことに心を砕いた。
「こんなこと初めてだ」
中庭の上空は真っ暗で、時折光る雷に照らされたとき横殴りの雪を見ることになる。