『パン』
今オフェーリアは黙々とパン生地を成形していた。
元々この宿屋では自家ではパンを焼かず、すべてをパン屋から購入していた。
だが雪が降り始めてパン屋からの配達がなくなり、自家で焼かなくてはならなくなりそれも主人の頭痛の種だったのだ。
魔導オーブンには次から次へと成形済みのパン生地が入れられていく。
ここは高齢者が多いのですべて柔らかいロールパンを作っていた。
焼き上がりはすぐに異空間収納に移されオフェーリア自身どれだけあるのか把握していない。
「そうね、サンドイッチ用の白パンもいるわね。
えっと、型はどこにあったかしら」
さすがに白パン(ここでは食パンのこと)まで焼くのは滅多にないため、どこに仕舞っているのかすぐには思い出せずにいた。
「ああっ。そうか、型はダンジョン村のゲルのキッチンに置きっぱなしになっていたわ。
急いで取りに行かないと駄目ね」
そう独りごちたオフェーリアは早速マティアスたちのいるゲルに転移した。
「ただいま〜」
「お?おう」「キュキュ!!」
いきなりの、それもいつもよりはかなり早い時間の帰宅に2人ともびっくりしている。そして立ち直るとオフェーリアを抱きしめた。
「あっちは大変なんだろう?
戻ってきて大丈夫なのか?」
「キュ〜ン」
【ぼくちゃん】も心配そうに身体を押しつけて来る。
「大丈夫よ。
ちょっと忘れ物を取りにきただけだから」
「何だ、パン型か?」
「そう、雪に閉ざされていてパンすら買いに出られなくなってるからね。
そうだ、ロールパンを焼いたの。
こっちにも少し置いていくわね」
大好物のロールパンをもらって【ぼくちゃん】はとても嬉しそうだ。