『現在の宿屋』
雪が降り始めて4日目。
また転移して見てきたが濃灰色の雲が次々と押し寄せ、止むようには見えない。
この異常気象はまだまだ続くと考えるべきでオフェーリアは唇を噛み締めた。
「これは覚悟を決めるべきね。
……私が居る宿屋はともかく、人死が出るわ」
ゲルに戻ったオフェーリアは何事もなかったようにジョーンズたちの前に姿を見せた。
「兵士さんたちの様子はどうかしら」
「おかげさまで腹いっぱい食事をしたら皆落ち着いたよ。
ただ、また具合が悪そうなのがいたからあっちのゲルに移した」
「わかったわ。
皆に薬を用意する。あとは何かあった?」
「今回詰所に最後まで残った連中はほとんどは独り者で独り暮らしのものが多いんだ。
隊長は降り出した日家族を実家に行かせたそうだし」
ただそこからどうなっているかはわからないそうだ。だが実家は商家の大店なので備蓄はそれなりにあるだろうとのこと。
ただ今は確かめようがないので隊長は気を揉んでいるそうだ。
「薬や食事は俺が持っていくよ。
フェリアとの接触が増えたら、あいつら要らぬ詮索をしかねないから」
「うんわかった。助かるわ」
オフェーリアはより危険な状態になり得る老人たちの様子に気を配ることにした。
避難してきたものの人数が増えたことで、主人は一日中調理場にいた。
ただこの頃には早い時期に避難してきていた老人たちが交代で手伝うようになっていた。
それは調理だけではなく、掃除や洗濯なども自ら行っている。
「はい、おまちどうさま。
クリームシチューはたっぷりあるからお代わりもできるわ」
女将が2階の客室にいる、足腰が弱って動きにくい老人たちの元に食事を運んでいた。
その食事も最初の頃からは一品減っていたが、シチューやスープの具材のソーセージなどの数を増やしている。
「ありがとう、すまないね」
「そんな。困ったときはお互い様でしょう?
あとで薬湯を持ってくるわね」
そしてオフェーリアの煎じた薬湯が大活躍していた。