『旧交を温める』
そそくさと出ていこうとしていたオフェーリアはダルタンによって物理的に引き留められた。
憲兵隊長のフランシスと防衛隊長のダルタンにとってオフェーリアは、自身の命を救った大恩人である。
特にダルタンは自分だけではなく、指揮していた分隊の部下たちの命も結果的には救命された。
そんな、この町に多大な貢献をしたはずの彼女は、そのあとつまらないゴタゴタに巻き込まれ、嫌になって出奔した。
……これはこの町に来る前と同じ状況のようだ。
「で?
あのクソジジイたちはまだ生きてるの?」
オフェーリアが聞いたのはそのゴタゴタの元凶だった、当時この町の有力者だった者たちの現在だ。
「あ〜
結論から言うと、いません。
全員とっくに棺桶の中です」
「そう、それならしばらくここに居ても良さそうね」
オフェーリアの呟きを聞いたむさ苦しい大男2人が、喜びのあまりガッツポーズをしている。
「さっきも言ったけど、私、宿をとりに行ってくるわ」
「え?
姉御、ぜひうちに滞在して下さいよ」
「いや、俺のところに」
また2人が言い合いをしている。
「アリシアも喜ぶと思います。
あいつ、あの後ずいぶん凹んでいたんですよ」
「おお!
フランシスとアリシア、結婚したんだ!」
当時、ふたりは付き合い始めで、ずいぶんと初々しかった覚えがある。
オフェーリアは自分は色恋にまったくうといのに、一生懸命応援していたのだ。
「う〜ん、今夜のところはフランシスのところで厄介になるかな。
そこ!ダルタン、そんなしょげた顔しない!
ちゃんとあんたのところにも行くから。
ところであんたたちの家には馬車一台分くらいの空き地はあるかな?」
「俺ん家は通の家政婦しかいないから、庭はそのまんまだし、馬車なら2台は問題ない」
そう言ったのは、悲しい独身のダルタンだ。
だが今回はそれが幸いした。
「うちは残念ながら……」
アリシアの花好きは当時から有名だった。
何しろプロポーズの言葉には『君のためのフラワーガーデンが云々』という言葉が含まれていたほどなのだ。
「とりあえず商業ギルドに顔を出してくるよ。
あそこにも顔見知りが残ってるのかしら」
「クロードがギルド長で残ってます。
でも今日はやめておきましょうよ。
明日、お供しますから」
フランシスは何やら含みのある様子である。