『調理場』
「魔導コンロ?」
「そう、私が私物を提供したの。
魔導ストーブもいくつか提供したけどなるべく薪は節約したいでしょ?」
「……それほどなのか」
「しょうがないわよ。
暦的には完全に春なのだしもう冬期の間の備蓄してたのもカツカツでしょう?
それなのに入荷がなくてはどうしようもないわ」
事実ボンズの家では薪が残り少なくて調理することも出来ずに茶を飲むのが精一杯。
サムプとジュエイン夫婦に至っては薪は底をついていた。
それをジョーンズはその目で見てきているのだ。
調理場の奥の休憩用の部屋を片付けてそこに調理台を移し、備品棚も移動させて魔導コンロと魔導オーブンを追加で出した。
「俺、こんなの初めて見た」
確かにこの宿は薪を使った竈とオーブンだった。
「今回みたいな時のために一台くらいは持っていた方がいいかもね」
それだけではない。
薪にする木材を伐採し続けていると森林破壊が進み、それは結果魔獣を引き寄せることになる。
「それとお客さんに手伝ってもらって客室の窓に板を打ち付けてもらったの。
あれで隙間風が少しはマシになると思わ。
多分まだ、皆寝てないと思うから確認しておいてくれるかしら」
「了解!あとは何かないか?」
「今はもういいかな。
次は明るくなってからお願いするから、ジョーンズは今夜は早く寝んで」
「おう、そうさせてもらうわ」
朝からずっと続いた非常事態に、ジョーンズは自分が思ったよりも遥かに疲れていたのだろう。
その足取りは重かった。
「ふう、さすがに疲れたわ」
貸し与えられた部屋に一歩入ると瞬時に結界を張り、そして転移した。
「ただいま〜」
「キュウー!!キュ?」
突然現れた気配に歓喜した【ぼくちゃん】だったが、すぐにオフェーリアの異変に気づいた。
「キュ?キュキュー?」
いつもなら喜びのあまり抱きついてくる【ぼくちゃん】が今は心配そうに様子を窺っている。
「どうした?
お、フェリア戻ったのか」
マティアスも嬉しそうに近づいてくるが、すぐにオフェーリアの顔色に気づく。
「どうした?何があった?」
「ごめんなさい、やっぱりもう寝かせて……」
オフェーリアは珍しく力尽きた。




