『避難』
「うう、生き返る……」
「っ……」
サムプとジュエインがスープを手に身を震わせている。
ボンズもようやく落ち着いたのか、ジョーンズがぶちまけていったアイテムバッグの中身、自分の貴重品や食料、残りわずかだった薪などをより分けていた。
「あのまま家に置いておいても最悪略奪されるだけだから迷惑になるだろうが色々持ってきた。
魔法の鞄があって助かったよ。
食材は全部自由に使ってくれ。これはサムプたちも同じ考えだ」
「わかった。ありがたく使わせてもらうよ」
2軒分で木箱が2つ。主に保存のきく根菜類と小麦粉、少量の干し肉やソーセージとあとパンがある。それと塩と僅かな茶葉だ。
「それにしても助かったよ。
儂ら、昨夜から茶ぐらいしか腹に入れてなかったんだ」
「?これだけ食材があるのに?」
「調理する薪がなかった。
湯を沸かすのが精一杯だったんだ」
オフェーリアは調理場から顔だけ出して話を聞いていた。
老夫婦の方も薪がなくなってボンズの家に身を寄せたと言っていた。
「もちろん食料もだけど、より深刻なのは薪の方なのね」
「うちはこんな商売だからそれなりに備蓄しているが、それでもこの先どうなるかわからない。
おそらく個人宅では彼方此方で爺さんたちのようなことが起きてるかもしれん」
主人はそう返しながら、もう一度老人たちにことわって食材を運び始めた。
いつの間にか宿泊客の中のひとりも手伝い始めている。彼は以前冒険者をしていたことのある商人で、今回オフェーリアと反対で隣国へ商談の予定だったのだが、ここで足止めを食らっているのだ。
スープを飲んで落ち着いた老人たちを女将が準備していた部屋に案内していた。
「本当に3人でひと部屋でいいの?」
この部屋は本来なら体格の良い冒険者などが泊まるひとり部屋だ。
そこに簡易ベッドを入れて3人が寝られるようにしてある。
「なに、どうせ寝るだけになるだろうしな。
……ここは魔導具ストーブが入っているのか」
「ええ、フェリアさんが提供して下さったの。
これは薪の節約と何よりも換気ができないから小さな部屋で火を焚かない方がいいのですって」
「あのお嬢さんか」
余裕がなくて礼も言わずに上がってきたが、なんとなく違和感を憶える。
「うふふ、見た目はお嬢さんだけど本当は違うみたいよ」
「そうか、エルフなのか!」