『天候の激変5』
「息子さん、ええと名前はなんていうの?」
今更である、めちゃくちゃ今更である。
「じ、ジョーンズ」
「じゃあジョーンズ、これ貸してあげるから、これから迎えに行くお年寄りのところの荷物を入れてきて。
食料と薪だっけ。あと貴重品も忘れずにね」
オフェーリアにとっては大した容量もないアイテムバッグだが、唯人にとってはびっくりするような魔導具だ。
ジョーンズは戸惑いながらも防寒着に着替えて風雪のなか、外に出ていった。
「さて、次は熱々の具沢山スープを作るわよ。
竈の薪は出来るだけ温存して、調理はこれを使うわよ」
オフェーリアがいつも使っている魔導コンロだ。
「これなら調理していない時でもずっとお湯を沸かしていられるわ」
「おう、何か色々すまないな」
「こちらこそ押し付けがましくてごめんなさいね。でも安心して、この手のことは慣れてるから」
見た目は少女でもその重ねてきた年月は、おそらく目の前の主人の親の年代と変わらないだろう。
それでも魔法族としては赤子も同然であるが。
「いや、助かっている。
……こんなことは初めてで、実はどうしたらいいがパニクってるんだ」
それは、今はこの場にいない女将も同じで、身体を動かすことによって何とか自分を保っている状態だ。
ちなみに彼女は今、これからやってくる客や避難民のために部屋を整えている。
「ねぇ、この宿の定員は何人なのかしら」
「今は、お嬢さん」「フェリアよ」
「フェリアさん、うちは全部で16室あって半分が1人部屋だ。
あとは2人部屋が5室、家族用の大部屋が1室、冒険者用の大部屋が1室、今フェリアさんに使ってもらってるちょっといい部屋が1室だ」
「じゃあ普通の1人部屋に変えてちょうだい。
できればトイレと洗面台があれば言うことないけど、ないならないで構わないわ」
「え?いいのか?」
「ええ、これから何人捻じ込まれるかわからないでしょ?途中で変わるのも何だし、どうせ寝るだけになるだろうし」
「俺は、うちはなるべく顔見知りの奴を受け入れたいと思ってる。
フェリアさん、心遣いありがとう」
「い、いいのよ。
それよりもさっさと調理しちゃいましょう」
厳つい大男に礼を言われて頬を染めたオフェーリアはガラにもなく照れていたのだった。