『ルーシャ』
オフェーリアが徒歩でルーシャの町の門前に現れたとき、この寒波で馬車すら訪れることが減ったことですっかり暇を持て余していた門番の兵たちは己が目を疑った。
「おい!
一体どうしたんだ!?無事か!?」
重鎧を纏った兵士がガシャガシャと音をたてながらオフェーリアに向かって走っていく。
「ええと、何かありました?」
オフェーリアは防寒の付与の付いたローブを着ていてまったく寒くないのだが、どうやら異常に心配されているようだ。
「ん?女の子か?
君はひとりなのか?」
「はい、ひとりですけど」
「とにかく早く中に入りなさい。
入国の申請は詰所でするから。
……お嬢さん、何か事故でもあったのかね?」
オフェーリアはかぶりを振った。
変な誤解を与える前にしっかりと否定しておく。
そしてここは石造の防壁を通り過ぎて、町中に入ってすぐのところに詰所の建物がある。
そこにオフェーリアは迎え入れられた。
「寒かっただろう?
いつものこの時期ならとっくに春を迎えているんだが、今年は何もかもおかしい」
簡素な長机と複数の椅子が並んでいる。
暖炉では赤々と火が燃えていて、煤けた薬缶がぶら下がっていた。
その他、視線だけで見回すと槍や戦斧などが立て掛けられていた。
「私はビドー大学院の学士です」
まずはそう説明してギルドカードを取り出した。
「ほう、学士殿か。
どれ、拝見させていただく」
金色のカードはAランクを意味する。
Aランクの冒険者にはここらでは中々お目にかかれない存在だ。
兵士は偽造を疑うわけではないが、しみじみとカードとオフェーリアを見比べた。
「私は見かけより年嵩なの。
冒険者も長く続けていればそれなりのランクになるってわけ」
兵士は詮索するのをやめた。