『【ぼくちゃん】』
「さて、今日もがんばりましょうか」
「キュィ」
一泊するだけでは疲れが取れなかったオフェーリアはまだダンジョン前のゲルにいる。
そして当然【ぼくちゃん】もいっしょにいるわけで、2人は今鶏ガラスープのアク取りをしていた。
「うん、上手だよ」
ただひたすら掬い取るだけの単純作業。
片手でも出来るので勧めてみたら【ぼくちゃん】も楽しそうだ。
今夜はこの鶏ガラスープを使ったメニューにしてみようと思う。
「お手伝いありがとう。
雨も止んだようだし、ダグルたちとお散歩に行ってくる?」
「キュゥ!」
ダグルが装備を整えて待機している。
【ぼくちゃん】にも特製の軽鎧を用意していて、いつでも出かけることが出来る。
オフェーリアが手ずから鎧を着けてやって送り出した。
「さて、私も少し休もうかな」
結界魔法をかけながら身体強化し、そして長時間にわたって飛行した。
それは思いの外オフェーリアの身体を蝕んでいて、それゆえに今日の出発は見送った。
さすがに明日は出発出来るだろうが、加減は必要だろう。
そのようなことをつらつらと考えながら横になったオフェーリアはあっという間に眠りに落ちていった。
熟睡状態から意識が浮き上がってきたのは馴染みのある男の低く押し殺した声が聞こえてきたからだ。
「マティアス?」
身を起こしたオフェーリアがその名を呼ぶと足早に近づいてくる気配がする。
「オフェーリア、【ぼくちゃん】が……」
マティアスの表情は真剣だ。
「【ぼくちゃん】が?」
何事が起きたのかと眠気もすっ飛んでいった。
「【ぼくちゃん】が自力で角兎を獲って来たんだ」
もう満面の笑みを浮かべて告げたマティアスは親バカ以外の何者でもない。
「ええっ?どうやって?!」
「少し前からダグルに槍投げを教わっていたらしい。今日初めて獲物に当たったそうだ」
「おっ」
「おっ?」
「お祝いしなきゃ!!」