『【飛行】』
パルタの町から国境の峠を越えてバロア側の国境の町ルーシャまでは、今の時期なら3日に一度乗り合い馬車が出ているはずだった。
だが今回の寒波により不定期になっていて、次の便は運行未定となっていた。
「こうなるとやっぱり自力で強行突破ね」
オフェーリアは着々と準備を進め、パルタの町から人知れず姿を消したのだが、飛竜便の面々がそのことに気づくのは10日ほど経ってのことだった。
「う〜ん、順調順調!」
自身に【結界魔法】をかけ普段飛竜便が飛ぶ高度よりさらに高いところを【飛行】する。
その際結界で自身を包み込むことによって空気抵抗が少なくなり、今まで以上の速度で飛行できることが判明した。そしてその結果、オフェーリアを獲物認定して突っ込んできた体長5mほどの大鷹を弾き飛ばすという結果に至ったのだ(当然落下していく大鷹を追いかけ回収した)
こうしてパルタの町を出発してから3刻後、無事に国境を越えたオフェーリアは森の中にゲルを張り安全地帯とした。
「今日は早かったんだな」
昨夜からの土砂降りの雨で、朝から一歩も出ずにゲルの中で遊んでいた【ぼくちゃん】が感じ慣れた気配とマティアスの声に振り返ると数日ぶりのオフェーリアに思わず歓声をあげた。
「キューン!」
「【ぼくちゃん】ただいま。いい子にしてた?」
「キュキュー」
手にした積み木をオフェーリアに見せて、そして積み上げた“作品”を指す。
かなりの高さまで積まれたそれは緻密に重ねられていて、まだまだ高さを更新できそうだ。
「まぁ、上手ね。【ぼくちゃん】偉いわ」
「どうした?何かトラブルか?」
マティアスが近づいてきて軽々とオフェーリアを抱き上げた。いつものスキンシップだ。
「トラブルと言えばトラブルね。
結局自力で飛んで行くことになったんだけど、予想以上に体力を食うの。だから休憩中よ」
難しいことはわからない【ぼくちゃん】だが、今は単純にオフェーリアと居られる事を喜んでいる。