『憲兵隊詰所』
詰所に招待されたオフェーリアは、食堂の広いテーブルの片隅に座らされていた。
その眼前には、彼女をここまで連れてきた憲兵(彼は今の時間帯の班長だった)と憲兵隊の副隊長がいる。
この副隊長、班長に増して厳つい熊のような男だ。
その顔を見れば、普通の婦女子なら泣き出してしまいそうなのだがオフェーリアに怯えはない。
この手の男は顔は怖いが心根は優しいものが多い。現に彼は先ほどからずっと、無理に連れてこられたオフェーリアに気を使っている。
「お嬢さん、いや薬師殿。
これが無理矢理ご同行願ったようで、誠に申し訳ない。
今、憲兵隊長と防衛隊長を呼びにやっているのでもう暫くお待ち願いたい」
「私は大丈夫、気にしていません。
ただ、この後ギルドに行って、次に宿をとるつもりだったから、予定が狂ってしまいますね」
オフェーリアは自分が飲むためにアイテムバッグから保温水筒を取り出した。
同じくマイカップを出して、注ぐ。
湯気が立つその様子を見て、男たちにどよめきがあがった。
「どうしたの?
あなたたちもカップを出しなさいよ」
そう言ったオフェーリアが、ぐいと水筒を差し出すと、慌てて小間使いの少年が駆け出し、すぐにカップの入った籠を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
それぞれ自分のカップを選び出した副隊長と班長は先を争って紅茶を注いでもらった。
そして熱々の紅茶を啜り、溜息をつく。
「美味しいでしょ?
このお茶、私の故郷のお茶なの」
彼らもまさか魔法族御用達の茶葉だとは思ってもみないが、大変ありがたがって頂いていた。
「はっ、大変結構でございます」
厳つい大男がカップを手にして畏っている様が可笑しい。
オフェーリアはおかわりを注ぎ、今度は小型の、蓋つきの容器を取り出した。
「次はこれを入れてみたら?」
これでかき混ぜてね、と言って渡されたスプーンを持って困っている男たちの前で容器の蓋を開けると、その中のものを見てまたどよめいた。
「これはっ、もしや砂糖かっ!?」
「ふつうはスプーン1杯ですが、甘いのがお好みなら」
オフェーリアの言葉を待たずにふたりは競うように砂糖をすくった。
1杯、2杯とカップに入れ、かき回す。
そしてカップに口をつけると、ズズッとすすり上げる。
そして。
「甘い!」
「甘いぞ!!」
いい歳をした男2人が子供のようにはしゃいでいる。
「おい、何を騒いでいるのだ?!」
ようやく待ち人たちが到着したようだ。
オフェーリアはゆっくりと振り向くと、到着した2人、憲兵隊長と防衛隊長の顔をしげしげと見入った。
「あれから10年くらいだから、どちらかは顔見知りかと思っていたけど、両方ともだとは思わなかったわね。
久しぶりね。
フランシス、ダルタン」
「フェリア様……」
隊長ふたりはオフェーリアの姿を呆然と見つめていた。