『冒険者の町』
春までラバナラに留まったオフェーリアは雪解けを待って旅立った。
懸命に距離を狭めようとするアーチボルトに辟易としたからだが、これは誤解させるようなことを言ったオフェーリアが悪い。
彼と恋人同士になるつもりのないオフェーリアは早々に逃げ出したのだ。
「で、やって来ました、ダンジョンと冒険者の町【ベッケレート】」
この町は10年ほど前まではよく顔を出していた町だ。
少々トラブルがあって足が遠のいていたのだが、もうそろそろ時効だろう。
「こんにちは〜」
ダンジョンが近く、強力な魔獣が多い森も近いためこの町の守りは頑強だ。
町を囲む外壁は、その幅が10m近くもあって、そこが憲兵や防衛隊の宿舎となっている。
その他、内側には武器屋や防具屋などが並ぶ“ダンジョン都市”らしい佇まいを見せていた。
「おう、嬢ちゃん、ひとりか?」
この町には色々な者たちが訪れるため、オフェーリアがひとり旅でも驚く憲兵はいない。
完全な実力主義な町には、まるで子供にしか見えないA級冒険者なども珍しくない、目の前の少女もただの少女ではないかもしれないのだ。
「この町のギルド……
売りたいものがあるんですけど、冒険者ギルドの方が買い取りが有利ですかね?
いつも商業ギルドを利用してるんですけど、需要と供給はどうなってます?」
いわゆるダンジョン都市は普通の町とは傾向が違う。
すべてがダンジョン攻略を行う、冒険者ファーストの町なのだ。
「お嬢ちゃんの売り物は何だい?」
「色々あるけど、今日はポーションです。
薬師なんです、私」
そう言った途端、憲兵たちのオフェーリアを見る目が変わった。
「い、今、ポーションと言われたか?
回復薬ではなく?」
「ええ、ポーションです。
ここは冒険者の多い町でしょう?
きっと良い値で引き取ってもらえると思っ……」
オフェーリアが最後まで言い切る前に、目の前の兵に抱え上げられ、詰所に向かって拉致されていった。
「薬師殿、ギルドに卸す前にぜひうちと防衛隊に売ってくれ!」
小走りで詰所の中を進んでいく憲兵は、どうやらそれなりの階級のようだ。
「ええ、それは……頂けるものを頂けるのなら、お売りしますけど……」
「よし。
おい、誰か、ポーションの今の相場を調べてこい!」
威勢の良い返事をして駆け出していった憲兵が帰って来るまで、オフェーリアの軟禁は決定のようだ。




