『飛竜の夕食』
ひと段落ついた御者と共に飛竜の元に向かうと、“彼”は座って結界の外の一点を見つめていた。
「魔獣がいるのね?
でも大丈夫よ、結界は二重に張ってあるし、第一あなたがいるのに突っ込んでくる魔獣っているのかしら」
「お嬢さん、こいつはうちの飛竜でも特に大人しい奴で、仲間との喧嘩もしたことがないんです」
「あらまあそうなの?
それでね、あなたに食事をと思ってきたんだけど、いつも何を食べているのかしら」
「冒険者ギルドに依頼して手に入れた魔獣の肉です。主に雑魚魔獣のララビットやゴブリンなんかを与えてます」
「生で?」
「はい、生で」
「じゃあオークを提供するわね。
あなた、オークは好き?」
とりあえず一頭出してみたオークは死にたてほかほかである。
「血抜きしてあるんだけどいいかしら?
それと解体は必要?」
ふるふると頭を動かした竜は、目の前のオークに見惚れている。
そして前足を伸ばしたり引っ込めたりして葛藤しているようだ。
「うん、おあずけはかわいそうね。
……なるべく散らかさないように食べてね」
一応オフェーリアが客車の向こうに行くまで待ってくれた竜は、後で御者に聞いたところ二口で食べてしまったそうだ。
食事の後は寝床の準備だ。
オフェーリアはもちろん自分のゲルを設置しているが、御者たちはいつもそうするように飛竜の近くにテントを張った。
いつもならテントの外に一晩中焚き火を熾すのだが今日は魔導ストーブを借りて暖をとっている。
そしてこれも習慣なのだが、オフェーリアが見張りは不要だと言ったのにも関わらず交代で夜番することにした。
したがって、客車は職員1人で使うことになる。
「おい、本格的に降り出したぞ」
「まさか積もるんじゃないだろうな」
そんな危惧している2人を嘲笑うかのように、その場は吹雪の様相を呈してきていた。