『緊急事態』
着地に多少揺れはしたが、問題なく着陸した飛竜便は御者の点検の後客車のドアが開かれた。
「!!」
吹き込んできた風は先日までと違ってずいぶんと冷たいものだった。
「北風が強いようですね。外套はお持ちですか?」
職員は一度ドアを閉めるとオフェーリアに向き直った。
もちろん冬支度一式異空間収納に入っている。
「困ったことになった。このままでは雪になるぞ」
飛竜を操る御者が2人、ドアを開けて入ってきた。この区間は長距離なので交代要員がつくのだ。
「まさかこの時期に雪?
もうとっくに春なんだぞ!バロアならともかく!」
職員が顔色を変えた。
少々拙いことになっているようだ。
「あの、ごめんなさい。
今夜はここで野営するんですよね?
雪が降るって、飛竜は大丈夫なんですか?」
竜人であるマティアスは寒さに弱かった。
なら、竜はどうだろうか。
「今から首都に戻るのは……」
職員が口にしてはみたが御者は頭を振っている。
「冷えて動きが鈍くなってきたから降りたんだ。
本来はもっと先で野営する予定だったんだが向かい風が強くてな」
「今夜はこのままここでやり過ごすしかないということね?
ならば私がお役に立てるかもしれないわ」
オフェーリアは異空間収納から毛皮で縁取りされたローブを取り出し身につけた。
「御者さん、いっしょに来てくれるかしら。
竜を凍えさせずにいられるかもしれないわ」
そんなことが出来るのかと顔を見合わせている男たちの前で、オフェーリアはドアを開けて外に出た。
「グォー……グゥー」
御者の姿を目にして飛竜が情けない声をあげた。
もうかなり寒いのだろう。翼をぴったりとたたんで蹲っている。
「寝床はそこでいいの?」
人に使役されている竜は意思疎通ができる。
目の前の飛竜は尾を動かすことで同意を示した。