『乗客はひとりだけ?』
「えっと……
これは一体どういうことでしょうか?」
前回飛竜便に乗った時に知り合った若旦那たちに見送られ出発したオフェーリアだったが、その客車の中を見回して思わず呟いてしまった。
「どうかなさいましたか?」
乗務員席で何かを読んでいた、先日も担当してくれていた職員が顔をあげた。
「いえ、この便の乗客は私だけなのですか?」
「ああ、そのことですか。
そうです。この便はお客様おひとりですが、それが何か?」
オフェーリアは開いた口が塞がらなかった。
「そんな……私ひとりのためにこの便を飛ばせたのですか?
そんな非効率的なことを」
薄っすらと笑んだ職員の男が立ち上がってオフェーリアの元に近づいてきた。
「お客様からはお高い運賃をいただいておりますしね、第一これから向かう町には復路便に乗る乗客の方々が待っておられます。
なのでこの便はたとえ空でも出発致しましたよ」
そう聞くと多少は納得するのだが何となく落ち着かない。
こういったときは単純作業をして落ち着くべきだと、オフェーリアはレース編みの糸と編み針、そして編み図を取り出してドイリーを編むことにした。
レース編みに夢中になっていたオフェーリアは、乗務員席で本を読んでいた職員が客車の外の竜に乗った御者と通話管で話していることに気づいた。
「?」
「お客様、もうすぐ落日なので、良さそうな場所を見つけて野営となります。
着陸時に少々揺れると思いますのでご了承ください」
離着陸については停留場ならば専門の係員がいるのだが、野営の場合はすべてを御者が行わなければならない。
揺れが懸念されるのはそのためだった。
「そろそろ着陸ですね」
飛竜が螺旋状のコースを取りながらゆっくりと降りていく。