『初めてのマンゴー』
「トマトとバジルとヤギのチーズのサラダも食べなきゃダメだよ」
オリーブオイルと岩塩だけのシンプルな味つけで食べるそれは、どちらかと言えば野菜が苦手な【ぼくちゃん】も好んで食べるものだ。
ゲルのキッチンで手早くカットされたトマトを【ぼくちゃん】は目を輝かせて見ている。
今日はダグルたちもいないので、マティアスが取り分けてやっている。
「ああ、この魚のフライにタルタルソースがよく合う。
シチューが濃厚なのであっさりとすら思えるな」
【ぼくちゃん】はまわりを汚さないように、それでもかなりの速度で口に運んでいる。
シチューはスプーンとフォークを上手く使い分けて舌鼓を打っていた。
「デザートにマンゴーを切ってきたよ」
少し前に都で手に入れた南国の果物だ。
都でもかなり珍しいものでおそらく【ぼくちゃん】は初めて食べることだろう。
「キュー、キュッ!」
案の定【ぼくちゃん】は、そのつぶらな瞳を目一杯見開いてマンゴーの甘さに驚いている。
「キュ〜」
次に目を閉じてうっとりとしながら咀嚼している。
「どうやら気に入ったようね」
マティアスも気に入ったのだろう。
デザートフォークが止まることはなかった。
「で?状況はどんな具合だ?」
マティアスは歯痒くてたまらない。
できれば自分もオフェーリアと共に【ツブネラアロン】の確保に同行したいほどなのだ。
「ん〜、明日明後日は情報待ちかな。
幸か不幸か移動手段も天候待ちのようだし、明日は町を歩いてみようと思ってる」
【ぼくちゃん】を寝かしつけた後は夫婦ふたりだけの時間だ。
片付けられたテーブルの上には、マティアスにはワイン、オフェーリアには甘めのミルクティーが置かれている。
「今いるところは王都だっけ?」
「そうね、あの国では“首都”って呼んでるみたい。
私も歴史書で読んだだけだから細かいことはわからないけど、ずいぶん昔に王制を廃止して共和制?という制度に移行したらしくてその時に王都という呼び方を首都に変えたらしいのね。
でも肝心の共和制が上手くいかなくて王制に戻したらしいのよ。
で、町の呼び方はそのままになった、って話だそうよ」
マティアスにはいまいちよくわからない話だった。