『若旦那たち』
チウ・バダムは代々首都で織物問屋を営む商家のひとり息子である。
今回オフェーリアの探す【ツブネラアロン】とは直接の関わりはないが、商家としてのコネクションは持っている。
彼は彼自身のそれを使って多少だが聞き込みをしていた。
「バロアのお伽話に“雪の中に咲く花”というのがあって、子供たちへの戒め?みたいにして語られてるらしい。
特に北部では有名らしくて、近辺のものは誰もその山に入らないそうだよ。
ただその山脈を越えると海に出るのでね。
少し離れたところに山越えの街道が通ってるのでまったく人の行き来がないわけじゃないそうだよ」
なのでリッポーの行商隊が“魔獣花”なんていう話を知っていたのだろう。
「わざわざ調べてくれてありがとう。
何かお礼をしなくちゃね」
「商談に出ている親父が帰ってきたら、もう少し情報が得られるかもしれない。
ねぇ、いつまでならここに滞在できそう?」
「そうね、リッポーさんのところでも話していたんだけど飛竜便のバロアに向かう乗り継ぎ便が、春の訪れが遅れていて開通してないらしいの。
一応迂回の便はあるそうなんだけど結構遠回りで日数もかかるのよね。
なのでここで待機していてもいいかなって思ってもみてる」
「ああ、それがいいね」
「今までもバタバタしてたし、バロアに近づいたら忙しくなるだろうから休養にちょうどいいわ」
部屋に篭っていると見せかけてマティアスと【ぼくちゃん】の元に帰ってもいい。
オフェーリアは途端に嬉しくなってしまって知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
それを誤解するかわいそうな存在がいるにもかかわらずだ。