『アーチボルトと』
「さて、夜もふけていくばかりだから本題に入りましょうか」
オフェーリアの一言でアーチボルトの顔が引き締まった。
“本題”それはジルの事だ。
「最初に言っておくけど、私が持っているのは【鑑定】ではなく【看破】なの。
それでジルを診させてもらったわ。
……ごめんね、私には手の施しようがないの」
「そうですか」
アーチボルトは口惜しそうにそう言って項垂れた。
「もうそれなりの年齢だし、外科的な手段は取りようがないの。
最近はずいぶん辛そうにしているわ。
なので、ほんの気休めだけど飲薬を調合してきたの」
オフェーリアは異空間収納から木箱に入った薬瓶を取り出した。
「とりあえず、12本。
1日一本、そうね、夜寝る前に飲めば良いかしら。
これは痛み止めのように即効性があるものではないの」
アーチボルトは恭しく受け取って、自分の腰のポーチ型をしたアイテムバッグに仕舞った。
これはとても貴重な薬なのだ。
万一のことがないように持ち帰らなければならない。
「今回はそれだけしか調薬出来なかったけど、また用意しますね。
……アーチボルトさん、いえ、アーチーと呼ばせてもらうわ。
あまりひとりで抱え込まないこと。
あなたも私と同じで、一族内では浮いた存在なのだろうけど、誰か信頼できる相談者を見つけて振れる仕事は振った方がいいわよ?」
「そう、ですね。
ご覧の通り私はこんななのであまり友人と呼べる存在がおりません。
フェリア様、もしお嫌でなければ私と友人になっていただけませんか?」
アーチボルトは卑怯だ、とオフェーリアは思った。
この状況で断るなんてどの口が言えるのだろう。
「ええ、では私のことはフェリアと呼んで下さい。
私たちはこれから長い付き合いになると思いますのでよろしくね」
オフェーリアの方から手を差し出して、ふたりは握手を交わした。
すでに40代になっているアーチボルトは、今でも20代にしか見えない。
彼の寿命はおそらく、只人の倍はあるだろう。
「うふふ、ジルとあなたがいるからここに“家”を残しているのよ?」
無意識なのだろうがアーチボルトの心を掴む台詞に、彼女への想いをさらに募らせてしまうのだった。