『爺たち』
べダムの父が気を取り直して話し始めたのは、オフェーリアが【結界石】に使用する魔石を取り出しそれに魔力を充填するのを見せて、その魔石をプレゼントしてからだった。
そしてちょうどその頃在都している古株の商会員が集まってきていた。
彼らが応接室に入ると見慣れない女性が座っていた。
どうやらかなり話に花が咲いたのだろう、珍しく商会長が相好を崩している。
「急に集まってもらって悪かったな。
皆に少し話を聞きたかったのだ」
「一体どのようなことでしょうか?」
この中で一番年嵩のに見える男が代表して質問した。
彼は今は隠居していて、ここに来るのは久しぶりであったようだ。
その彼が横目でチラチラとオフェーリアを見ている。
「その前にこちらの方を紹介する。
彼女はビドー大学院の学士でフェリア殿という。
今回はたまたまべダムと知り合って、ある“情報”を得ることができればとのことでここにいるのだ」
集められた彼らは現、または元商人だ。
何の見返りもなしに情報を与えるつもりはなかったが、それに対しては目の前のテーブルに答えがあった。
「これは……結界石ですな?」
彼らならば自ら使用したことがあるだろうと推察していたがビンゴだったようだ。
「ええ、単刀直入にお聞きします。
皆様は【ツブネラアロン】について何か情報をお持ちでないですか?」
「【ツブネラアロン】?」
そう聞き返したものもいるが、目を閉じてじっと考え込んでいるものもいる。
オフェーリアはこちらから先に情報を与えることはせずに彼らの様子を窺っていた。
「それはあれかの。
辺境のさらに奥の北の山に生息すると言う、魔獣花のことかな?」
「魔獣花?」
オフェーリアも初めて聞く名だ。
「花は雪の中で咲くと言うが、無警戒に近づくと攻撃してくるそうだ。
一説には生物の屍を糧として花を咲かせると言う……
儂が聞いたのはそんなところだが」
何と身の毛のよだつ話だろうか。
だが彼はあくまでも聞いた話だと念を押した。