『べダムの父2』
結界石に関しては最初こそはオフェーリアが仲介したが、あれは元々冒険者が安心してダンジョン攻略をできるようにと普及させたものなので、それ以外の販路に気を配ることはなかった。
なのでどうやらこのあたりの商人が手に入れることは非常に難しかったようだ。
そしてこの結界石は恒久的に使用できるものではない。使用回数が決まっていて、それ以上使用するためには魔石に魔力を充填するか魔石そのものを変えるしかない。
おそらくだが普及し始めた40年ほど前にはそれなりに珍しいものではなかったのだろうが、今はダンジョン専用の魔導具となっているのだろう。
リッポー商会長は目の前の【結界石】を信じられない思いで見つめていた。
実はこの商会にも彼の父の代のわずかな期間、【結界石】を使用していたことがあった。
そしてその時期、商会は一気に発展したのだ。
彼が商会長になった頃にはもう紛失していて手にすることはなかったが、憧憬すべき魔導具だった。
「このような貴重なものを……」
感極まっているリッポー商会長を見ているオフェーリアはようやくその場にいるべダムや年嵩の商会員の驚愕した表情に気づいた。
「あれ?もしかしてやらかしちゃった?」
オフェーリアにとって【結界石】とは手土産にちょうど良い程度のものだったのだが。
「えっと、取扱の説明とか、メンテナンスの方法などはこちらの紙に書いてありますので、後で読んでくださいね」
「メンテナンスとは?」
「こちらに書いてありますが、【結界石】はその内蔵された魔石の魔力が枯渇すれば使用できなくなります。
そのために魔力の充填などを必要とするのです。
魔力切れの直前には【結界石】自体の色が変わるようにしてありますのでその場合は使用を中止して魔力の充填もしくは魔石の交換をします」
そんなことは知らなかったとショックを隠せないリッポー商会長は椅子に座り込んでしまった。
年嵩の商会員の話では以前この商会にあった【結界石】は正規の販売ルートから手に入れたものではなく、使い方だけ教わったそうだ。
「なら、魔力さえ入れれば今でも使えたのでしょうか?」
「そうですね。
魔石の交換は必要ですが、ダンジョン攻略の冒険者は親子で引き継いで使っている話を聞いたことがあります」
商会長はさらにガックリと肩を落としていた。