『べダムの父』
善は急げとべダム・リッポーは席を立ち、実家の商会に戻っていった。
食事を終えたオフェーリアは停留所の事務所に戻り、明朝の予約をキャンセルした。
そして再予約は様子を見て行うことにする。
飛竜便側も数日待てば本来の便に戻すことができるのではないかと予測しているので、今回のキャンセルはむしろ好意的に受け入れていた。
オフェーリアと若旦那2人は乗り合い馬車に乗っ首都の中央部に向かった。
そして彼らお勧めの宿に部屋をとり、べダムの商会まで送ってもらって一旦別れの挨拶をした。
「フェリアさん、いらっしゃい」
旅装束を脱いだべダムは今は若手の商人といった装いに変わっていて、心なしか生き生きとした様子だ。
「突然おじゃまして迷惑ではなかったかしら」
「全然そんなことはないよ。
今ここにいるのは親父と祖父の代からうちで働いてくれている爺やだけだけど話を聞いてくれるって言ってるから」
「そう、とても嬉しいわ」
手土産は何が良いか考えるオフェーリアだった。
リッポー商会は元は荷馬車に日用品を積んで、小さな町や村々を回り行商を営む一族だった。
それがべダムの曽祖父の代、ある町に拠点を置いてからとんとん拍子に業務が拡大し、祖父の代にはついに首都に進出して今に至る。
「突然おじゃましたのにお話を聞いていただけるとのこと、本当にありがとうございます。
こちらの品はお近づきの印です。どうぞ受け取ってくださいませ」
名を名乗り握手したあと、アイテムバッグから取り出したアラクネ絹の布の包みを商会長であるべダムの父に差し出した。
「これは?」
包みを開けて中のものを見た商会長は首を傾げ戸惑っている。
どうやらこれが何か知らないらしい。
「これは私の故郷の里で作られていて、数は限られていますがこの中大陸でも流通し始めている【結界石】といいます」
「何と!!」
若旦那とは似ても似つかない大男がいきなり立ち上がった。