『若旦那たちのナンパ』
飛竜便というものは速くて便利なのだが、いかんせんその運賃は高価だ。
したがって万人が利用できるものではなく、その利用者は限られてくるのだが。
「ねぇ彼女、ひとりなの?
僕たちといっしょにどう?」
オフェーリアに声をかけてきたのは3人組の若者、誘い方はアレだが育ちは良さそうだ。
オフェーリアは読んでいた本から目線を上げた。
オフェーリアに声をかけてきたのはこれから向かうベルダリオでも有数の大店の若旦那3人組だった。
今回はトルキーアでの商談を終えての帰りだったのだが、ある意味暇を持て余しての行動だった。
……何と勇者なのだろう。
「ごめんなさいね。
私、ビドーの大学院から派遣された学士なの。
目的地に着くまでにこの本を読んでおかなきゃいけなくて、今ちょっとキリのいいところまで目が離せないの。
誘ってくれたのに本当にごめんなさい」
バッサリと切って捨てられれば角が立つ。
だが丁寧に断れば、この飛竜便を常から利用できるような階級のものならば態度を荒立てることは少ないだろうというオフェーリアの考察だったのだが、結論から言うとその通りだった。
「ああ、そうなんだ。
邪魔して悪かったね。ごめんな」
それなりに育ちの良い3人は大人しく引き下がった。
オフェーリアは意外に思わないこともなかったが、文面に視線を戻し、だがその耳は彼らの会話に集中させた。
その結果、なかなか興味深い話を聞くことができた。
それは主に今回の彼らの商談の経緯だったが、雑談の中に大陸北部の異常気象に関するものがあったのだ。
もう少し詳しく聞きたいオフェーリアはどう接触するべきか苦悶することになる。