『その後』
オフェーリアは、あの夜の、その後のことは詳しくは聞かされていない。
だが間を置かずにウェレット家(分家筆頭)が失脚し取り潰され、一家は根切りとなった。
それはウェレット家から嫁いだ家にも及び、むしろ率先して引き渡してきた家もあったそうだ。
そして最大の被害者は【デラメントル】の名を冠した商品を買った庶民だろう。
詳しく調べてみれば、とても【デラメントル】の名で売り出せることができる品ではなかったそうだ。
そしてその品を買った庶民の女子の多くが、人知れず姿を消していった。
その消息も知らされることはなかったが、オフェーリアは知らずにいた方が良いだろうと開き直ったのだ。
結果的にこの【デラメントル】での不本意な“出来事”は、その芽が小さなうちに摘み取れたということになった。
10日ほど経った後に報告にやってきたアーチボルトは、その容貌に薄らと隈を浮かべていて、思わず哀れに思ってしまったオフェーリアだった。
「さて、今回はご苦労様でしたわね」
本家の敷地内にある、オフェーリアの為の離れに訪問したアーチボルトは、その花のような微笑みに心から癒されていた。
「でも本当に初期に気づいてよかったわ」
表向き、貴族家には漏れていない事になっている。
現実にはアベンテェル侯爵夫人らの耳には入っていたようだが、その後の処理には充分に満足していた。
それは、貴族という特権階級のプライドの方がウェレット家や庶民の命より尊重されたことに殊の外気分を良くしたのだ。
「あなたにはお茶よりもこれの方が良さそうね」
オフェーリアは切子のグラスに初級ポーションを注いで渡した。
「こういう使い方をする人は少ないだろうけど、疲労回復にも効くのよ」
魔法薬であるポーションは魔力を持たない人間には作ることは出来ない。
今現在、ジルやアーチボルトの一族のような魔法族の血を継ぐ者たちが細々と製作しているのだが、これはかなり貴重な薬なのだ。
「そんな、フェリア様。
もったいない!」
「もう入れちゃったから、飲んで。
初級だから大したことないから、遠慮しないで?」
テーブルの上を、ずいと押し出されて、アーチボルトはありがたく頂く事にした。
まずは勧められた椅子に座る。
ここに来るのは初めてではないが、こうして腰を落ち着けるのは初めてかもしれない。
アーチボルトはグラスを手に取り、ひと口口に含む。
「初めて飲みましたが……意外と美味しいものなのですね」
ギルドでは苦くて不味いものだと聞いていたが、今口にしたこのポーションは爽やかなハーブの香りがする。
味は少々甘みが勝っているようだ。
「そうなの、このポーションは私の特製なの」
ずっと昔、魔法族がその血を継ぐ子孫に教えたポーションは、魔法族の薬師たちによって今はさらに改良されて効能も上がっていた。
「どう?楽になったでしょ?」
アーチボルトは空になったグラスをしげしげと見つめていた。