『緊急事態?』
【飛行】で、走るよりもはるかに早く目的地に向かうオフェーリアには、【ぼくちゃん】が傷つけられた前回の襲撃が思い出される。
「っ!やっぱり!!」
今も【ぼくちゃん】を狙うものがいるのだろうか、オフェーリアは言い知れない不安に駆られる。
「【ぼくちゃん】ダグル、無事でいて!」
たった5〜6人で出掛けていったことが迂闊だったと責めるつもりはない。
だが【ぼくちゃん】が竜人族の王家の関係者だと分かっていてもまだ襲うものがいるのかと腹立たしい。
数分だったか数十秒だったのかわからない。
だがオフェーリアにとっては永遠にも感じられる時を経て、前方に人が集っている様子が見えてきた。
「!……?」
剣戟の音も怒号も聞こえてこず、見ようによっては和気藹々としているようにも見える。
そうしてたどり着いた現場では、地に足がついていれば一気に崩れ落ちそうな状況が広がっていた。
「あああああー」
ため息とも吐息ともつかない声をあげたオフェーリアは今度こそ本当に座り込んだ。
もう脱力して立つことができない。
そんなフェリアにいの一番に気づいたのはもちろん【ぼくちゃん】だ。
「キュ?キューーッ!!」
むさ苦しい男たちの真ん中にいた【ぼくちゃん】がその輪をかき分け、飛びついたのは必然だった。
「キュウ、キュッ?」
昨晩帰ってくることがなかった大好きなひとに思う存分甘えるのは【ぼくちゃん】の特権だ。
「こ、これは一体どういった状況なの?」
見ればわかるがそれでも聞かずにはいられない。
「フェリア様。
このものたちは以前から懇意にしている傭兵団の連中で、あれ以来久しぶりに【ぼくちゃん】を見かけたので声をかけてきてくれたのです」
「ああ、そうだったんだ」
さらに脱力したオフェーリアを【ぼくちゃん】が心配そうに見ていると、ダグルがその心情を察してくれた。
「……うん、そろそろ来るわ。
止めて来なくっちゃ」
すでにその姿を捉えられるところにまで迫っているマティアスは、大剣を振り上げ気合のこもった叫び声と共に近づいてくる。
これを止めるのには【ぼくちゃん】が無事な姿を見せるのが早いだろう。
「マティアス!止まって!!
【ぼくちゃん】は無事よ!
そもそも襲撃ではなかったの!!」
「どういうことだ?」
マティアス以外の【ぼくちゃん】を含めたその場にいるものたちが、訳がわからないという顔をしている。