『飛竜便停留所に向かって』
飛竜便の停留所行きはすぐにやってきた。
降りてくる乗客はそれなりにいるが、乗り込むのは今はオフェーリアだけだ。
職員に礼を言い、教えられた通り銅貨8枚を運賃箱に入れる。
「こんにちは」
「こんにちは。
この馬車は飛竜便停留所行きだがそれでいいのかい?」
「ええ、よろしくね」
「この馬車は半刻後に出発します。
所要時間はおよそ2刻なのでゆっくりしていて下さい」
「うふふ、タメ口でいいわよ。
こんな小娘に敬語は違和感ありまくりでしょ?」
「心遣い感謝するよ。
でも見かけと実際の年齢が乖離している種族はそれなりにいるのでね」
「当たり!私はエルフよ。
でもまだ100才にもなっていない“小娘”なの」
フードを下ろしたオフェーリアは銀色の髪と尖った耳を晒した。
「これはこれは。
俺が今まで生きてきて2人目のエルフ様だ!」
オフェーリアにはよくわからない喜びの声を上げる御者だった。
「では出発します」
結局乗客はオフェーリアのほかにひと組。
中年の夫婦のようだ。
なので御者は2人きりのときのような饒舌さはなりをひそめ、通常運転である。
そしてオフェーリアはまたフードを目深にかぶり、話しかけられたくない感を目いっぱい出して本を読んでいるふりをしていた。
今考えているのは、さきほど御者から仕入れた情報である。
まずは飛竜便とは長距離便なので、一番近い停留所まででも最低朝出発して夕方到着になるという。
乗り継ぎの場合は翌朝になるのでその地で宿をとることになるが、目的地によっては夕刻には地上に降りて野営することもあるという。
なので今日の目的地である飛竜便停留所では、物資を十分に補充しておくように助言されたのだった。




