『オフェーリアの怒り』
「馬車を近くに止めて様子を窺っていたところに通りがかった子に駄賃をやって、出てきた女の子たちに聞いてもらったの。
みんな雑貨とかちょっとした菓子なんかをまずまずの値段で買っているようよ。
私も姿変えして乗り込んでやろうって思ったんだけど、ジルに止められたわ」
アーチボルトの眉間のシワがさらに深くなる。
「【デラメントル】はこんな安売りをしてもらっては困るの。
私の言いたいこと、わかるわね?」
【デラメントル】は貴族社会でもひとつのステータスブランドである。
それを貶めることは許されないのだ。
「すぐに手を打って下さい。
少しくらい過激な手を使っても構いません。
何が大切なのか、よく考えて処理をお願いします。
それからジルの件は今度にしましょう」
アーチボルトは深く頭を下げて、去っていくオフェーリアを見送った。
この後、本家の母屋に駆け込んだアーチボルトは鬼の形相だったと言う。
一直線に一族の長である伯父の元に向かった彼は、人目も憚らず室外に誘った。
「何があった?」
彼は今夜、結局姿を見せなかったフェリア絡みだと見当付けていた。
「【デラメントル】に関して契約違反です。
今日、フェリア様とジル様がたまたまご覧になったところでは【デラメントル】が庶民に小物や菓子などを売っていたと言うのです。
フェリア様はかなりお怒りで、私はこの件に関してすべての対応を任されました」
一族の長である彼も【デラメントル】の特殊性については最初に聞かされていた。
彼自身も末端ではあるが社交界の住人である。
【デラメントル】が扱う希少な商品は、最早貴婦人たちには必需品で、その頂点にいるのは、アベンテェル侯爵夫人マーガレットであり、たとえ王侯であっても彼女の紹介がなければ、あの美容液などを買うことが出来ないのだ。
それなのに、その【デラメントル】が事もあろうに庶民に商品を販売しているなど、許されるはずがない。
「ウェレット家(分家筆頭)に処分を。
あと、どの程度【デラメントル】として商品をばら撒いたか調査し、処分します」
対応を間違えれば、一族の破滅に繋がるかもしれない。