『北の国への第一歩』
その国の名すら忘れていた【コンタ】
この国は以前の面影すらなく、新しい国になっているようだった。
そう、オフェーリアが縁のあった頃は王制だったこの国は今は共和制という制度に変わり、もう貴族すらいないのだ。
以前の王都は首都と呼ばれ、かなりの建物が新しくなっている。
「ここはおそらくだけどクーデターがあったのね。
まあ、貴族に碌な奴はいなかったけど」
ブツブツと呟きながらオフェーリアは大通りを進んでいた。
彼女は今日は飛竜便の停留所に行き、明日の予約を取るつもりでいる。
なのに乗り合い馬車に乗らずにぶらぶら歩いているのは懐かしさに駆られてのものだったが、どうやら期待外れだったようだ。
「もうつまらないから馬車に乗ろうかな」
ちょうど乗り合い馬車の停留所が見えてきた。
さすが首都の停留所らしく各方面に向かう馬車が複数並んでいる。
各馬車の前面には番号が振ってあって、コンタ風に崩された大陸共通語で行き先が書かれていた。
「ふうん、もう今日は直通便はないのかな。
見当たらないね」
小柄な人物がキョロキョロあたりを見回しているのに気づいたのだろう。
停留所の職員が声をかけてきた。
「何かわからないことがあれば伺いますが」
とても丁寧な対応である。
「あっ、すみません。
飛竜便の停留所に行きたいのですが、今日はもう終了ですか?」
職員はハッと息を呑んだ。
この世界には人族だけでなく色々な種族がいて、それゆえに初見が子供のようでも丁寧な対応を心がけていた彼が、つくづく子供扱いしなくてよかったと思えるほどの美少女だ。
「いえ、便数が少なくて間隔は空きますがまだまだ大丈夫です。
おひとりですか?」
「はい、ここは乗車券はどこで買うのでしょう?」
「すみません。
先にそちらの説明をすべきでしたね。
首都の乗り合い馬車の料金は一律で、乗車する時に運賃箱に銅貨8枚をお願いします」
銅貨8枚=800大陸共通通貨である。