『解体場』
冒険者ギルドの建物の奥の魔獣の解体場に行ったことのある冒険者はさほど多くない。
普通の場合なら受付カウンターの奥の部屋で事足りる。
この解体場に案内されるということは、即ち“特大”の魔獣を持ち込んだということだ。
「まだ若い個体だから、それほど大きくないわよ?」
ローブのフードを下ろし素顔を晒したオフェーリアが面白そうに笑うと、ゲンは顔を強張らせた。
それも然り、この町のギルドに火竜が一頭丸ごと持ち込まれるなど何十年ぶりのことだろうか。
少なくともゲンがギルドに勤務し始めておよそ20年、何度かウロコを見たくらいだ。
「ではここに出しますね」
常からほとんど使われない、3階建てを吹き抜けにしたかなりの広さの空間に、解体人が集まり始めていた。
そんななか、オフェーリアは異空間収納からそれほど大型でない、若い雄の個体を取り出した。
その、音もなく現れた“それ”を見たゲンは腰を抜かして尻もちをついている。
「屠ってすぐに異空間収納に入れたから新鮮よ。
もし鮮度を落としたくないのなら、アイテムボックスにでも入れておくのをお勧めするわ」
急な報せを受けた解体人の長がギルドの裏の通りを走っていた。
「まさか!本当なのか?!火龍?完全体だと?!」
彼は今日非番で、職場であるギルドの解体場から程近い部屋でくつろいでいるところにとんでもない報せが飛び込んできた。
取るものもとりあえず全力疾走でやってきた解体場には体の部分だけで10mはある、赤い竜が横たわっていたのだ。




