『都市』
学研区の結界内、大学院のアグジェントの研究室に突然現れたオフェーリアに、徹夜明けの彼は腰を抜かすほどびっくりした。
「もう年なのですからびっくりさせないで下さい」
目の下にはくっきりと黒い隈。
普段は美老人であるアグジェントだがすっかりやつれている。
「寝てないの?何かあった?」
「いえ、連中は蜂起しましたが今は一般区を襲っています。
ただ一般区の住民も馬鹿ではありません。
今回は蜂起までの時間がありましたのでそれなりの備えが行われていたようです」
実はこの町は元々城塞都市でもあって、市民の意識もそれなりに高い。
そして先人の知恵として有事の場合は自らの資産を持てるものは持ち、動かせないものは地下の隠し部屋(倉庫の場合あり)に隠すようになっていた。
今回もそのようにしたため暴徒側には略奪するものがほとんど残されていなかったのだ。
そして彼奴らは隠し部屋(倉庫)のことなど知るよしもなく、現在はしらみつぶしに当たっているようだが、食料をはじめとしてめぼしいものは目につくところにはない。
そのあたりのことをアグジェントから聞いたオフェーリアはため息を吐く。
「はあ、それって最初から詰んでるじゃない。
きっと殺気だってるわよね」
「仲間割れも起きています。
特に最初に扇動した賊の連中との間には溝ができているようです」
オフェーリアは話を聞いていて、なぜあの頃から外部より人を入れなかったのか、やっと理解することができた。
こうなることも見越して住民以外のものを“排除”していたのだ。
「一般区の住民は自警団を残し、大方のものが行政区に避難したようです。
一部のものは地下の隠し部屋に篭っているようですが、それは僅かでしょう」
温和に見えて一筋縄ではいかないものたちのようだ。




