『アグジェント5』
お気に入りの茶葉で淹れた紅茶と自ら焼いたクッキーを前に、オフェーリアはアグジェントに座るように言った。
彼は戻って来た魔導具から返事を聞いている。
「今少し猶予が欲しいようです。
待ちますか?」
「まずこちらを閉じてしまうわ」
ティーカップを手にあっさりと言う。
「正門の警備員から連絡があって、今外出しているのが数人、一般区在住の者とその家族の安否も確認済みだそうです」
「そう、ではお茶の時間が終わったら結界を張るわ。
正門は……お願いね」
オフェーリアの魔法はあっという間に終わった。
いつもの結界石ではなく空間魔法の一種である結界だ。
試した事はないが、炎竜のブレスにも耐えうるという結界で、オフェーリア自身久しぶりに使ってみたのだ。
「行政区も今は大混乱でしょうね。
まあ、あちらを張り終わったら一度家に帰るわ」
暴徒さえ学研区に入れなければ問題ないのだ。
「まったく、賊っていう連中は何の目的があってこんなことをしてるのかしら。
他国の侵略?まさかね」
国境沿いの町ならともかく、このビドーは国の真ん中近くにある。
クーデターならわかりやすいが、アグジェントもそんな存在は知らないと言う。
一番わかりやすいのはこの町独特のもの、すなわち学問と知識だがはっきりとしない。
「と、言うことがあったのよ」
珍しく明るいうちに帰ってきたオフェーリアがマティアスの背中に貼りついている。
【ぼくちゃん】はダグルが運動に連れ出しているようで、今はダンジョンの浅層に行っているようだ。