『アグジェント』
「まったく……
あなたたちは今、どういう状況かわかっているの?
早くアグジェントを連れてらっしゃい」
まわりで立ち尽くす男たちに叱咤して、ようやく警備員が動き始めた。
そして改めてまわりを見回してみても顔見知りはいない。
「あの……フェリア様とおっしゃいましたか?」
一歩前に出てきた男がおずおずと声をかけてきた。
「ええ」
「“あの”フェリア様ですか?」
気のせいか男の瞳が喜びに満ちているように見える。
「“あの”というのがよくわからないけど、私はフェリアよ。
ここにきたのは……いつぶりだったかしら」
「28年ぶりですよ。フェリア殿」
そこにようやく現れたのは白銀の長髪と長い髭を持つエルフ……アグジェントだった。
「遅いわよ、アグジェント。
早速だけど、どこかで落ち着いて話したいのだけど?」
笑顔だが目が笑っていないオフェーリアの威圧に圧されて、アグジェントの背中に冷たい汗が流れる。
「では私の研究室に参りましょうか。
フェリア殿、今日はどのような御用件でお出でになったので?」
「あなた、外の状況がわかってないの?
まさかひょっとして報告を受けてない?」
ここは外から閉ざされている、まるで異空間のような地区だ。
なので行政府から使者が来ていてもここまで報告が上がってないのかもしれない。
「数日前から、何やら外が騒がしいようですが?」
「う〜ん、その程度の認識か。
私もついさっき知ったのだけど、その数日前から世間を騒がせていた賊が下級市民を扇動して蜂起したみたいなの」
「それは……」
「一刻も早く対策しなければ、わかるわね?」
普段から学問一筋の、いくら浮世離れしたエルフであろうと事の深刻さに言葉を失う。




