『ジルの一族』
ショッピングだけなので、小型の箱馬車に御者だけで出かけたオフェーリアとジルは、まずはジルの古巣商業ギルドに向かった。
「アーチー」
商業ギルドの副ギルド長、アーチボルトはジルの甥にあたり、ジルの引退後3人目の鑑定士になる。
「アーチボルトさん、こんにちは」
「これはフェリア様、お久しぶりです。叔母上もお揃いで。
今日はどうなさいました?」
アーチボルト。彼は若く見えるが、所謂先祖がえりというもので、魔法族の血が濃く出ている人物だ。
魔力も多く、鑑定の腕も確かである。
「こんなところでは何ですから、お茶をご馳走して下さらないかしら」
オフェーリアは暗に立ち話で済むものではないと匂わした。
アーチボルトも笑顔で頷いて、階上の自分の部屋に案内する。
「ジル、大丈夫?」
階段を上がるのもおぼつかないジルを見て、オフェーリアはアーチボルトに目配せする。
「叔母上、気づかずに申し訳ないです」
ジルに有無を言わせずいきなり彼女を抱き上げたアーチボルトは、さっさと階段を上がり終えて下ろしてしまう。
「もう、アーチーったら」
非難めいた口調だが、ジルとしては助かったのも事実だ。
最近は足腰だけでなく、胸が苦しくなるのだ。
「この部屋も変わらないわね」
ジルの商業ギルドでの最終職は副ギルド長、今のアーチボルトと同じだったそう、この部屋の主人だったのだ。
「華やかさは減ったかもしれませんがね」
3人が小さく笑う。
その時ノックがあって若い女性職員がティーセットを持って入ってきた。
「ああ、あとは私がするから下がっていいわよ」
一応関係者であるジルがそう言って立ち上がる。
ワゴンを押してきた女性職員は残念そうにアーチボルトを見て、そして退出していった。
「相変わらず、モテるようね」
茶化すようにジルが笑う。
「そんな……私が心を寄せるのはたったひとりです」
「まあ、そんな方がいらっしゃるのね?!
私の知っている方かしら」
若い娘?らしくはしゃぐオフェーリアを見て、ジルはアーチボルトの恋心が報われないなと些か残念に思っていた。
そう、アーチボルトは以前からオフェーリアに恋していたのだ。
初めて一族の集まりで紹介された時から心奪われ、それからずっと忍んだ恋をしている事は知る人ぞ知る秘め事だ。