『緊急!』
「あら?!」
結界の外には、雨具は着ているが強い雨に打たれてずぶ濡れの、いつもの乗り合い馬車の職員が立っている。
オフェーリアは結界の一部を開けて職員を招き入れることにした。
「どうなさったの?」
「こんな時にすまない。
だが至急の報せがあって来たのだ。
いいか、よく聞いてくれ」
びしょ濡れのまま結界内に入ってきた男はそれ以上中に入ろうとせず、その場で話し始めた。
「学研都市【ビドー】は本日夕刻6刻をもって完全に閉鎖される。
なので至急退避されたし」
「閉鎖って、いったいどうしたの?」
青天の霹靂である。
都市の閉鎖など戦争時かスタンピードくらいしか思い浮かばない。
現在【ビドー】では凶悪な犯罪行為がおこなわれていて町の外からの人と物資の流れを止めている。
それ以上の措置をとるということはそれなりのことがあったということなのだろう。
「差し支えなければ詳しい事を教えて欲しいのだけど?」
「……っ、賊が蜂起して、現体制に不満を持つ下級市民を煽り扇動しております」
まさかのクーデターか?
……一般的に都市や大きな町では支配者階級もしくは上流階級とそれらに従っている下層の人々がいる。普通はごく一部の【貴族】と一般市民はうまく住み分けしているのだが、この学研都市では少し違った。
それは学研都市特有の“研究者”という存在がいる。そして彼らを教師として国中はもとより他国からも学生が集まってきていて、この知識層の存在が事をややこしくしているのだろう。
「それはとーっても困るわねぇ」