『想い』
「ただいま」
ロバットに暇を告げると、彼の前であっさりと転移してきた。
ゲルの中では今夜はマティアスが起きていて、書類にペンを走らせていた。
「おかえり。
ああ【ぼくちゃん】は寝ている。
風呂にはいっしょに入った」
「ありがとう、お疲れ様」
「そっちこそ」
オフェーリアは座ったマティアスの後ろから覗き込んでいる。
「……その、なんとか言う花は手に入りそうなのか?」
「う〜ん、今のところは難しいかな。
でもまだ伝手はあるわ。
明日からはちょっと様子が読めないところに行くかもしれないので、こうして戻って来れるかわからない」
「寝るだけでもいいから戻ってこい。
顔を見るだけで安心できるから」
「うん」
そう返事したオフェーリアがマティアスの広い背中に抱きついた。
大き過ぎて手が回ることはないが、それでも頬を擦りつけて甘える。
今宵はこれからが長くなりそうだ。
今朝の【ビドー】はかなりの勢いで雨が降っていた。
結界が雨を弾き飛ばしゲルが直接濡れることはないが、何となく肌寒く感じられる。
「……お茶でも淹れて飲も」
ゲルの中の拡張空間にはちゃんとしたキッチンもある。
だがオフェーリアはテーブルの傍に簡易コンロを出し、そこで湯を沸かし始めた。
茶葉はお気に入りの高原もの、茶菓子はラングドシャーを取り出した。
「美味しい……」
柔らかな味わいのこのお茶は何も入れずにストレートで飲むことにしている。
そのかわり菓子は思いっきり甘いものを選んでいた。
「今日はここでは動きが取れなくなっちゃったな」
ぼんやりとこの後の予定を考えていると、結界をそれなりの力で叩く気配がした。
「何ごと?」
あまりにも乱暴なノックにお茶の時間を邪魔されたオフェーリアは、まだラングドシャーを咀嚼しながらゲルから頭を出した。




