『夢みたから揚げ』
まずはおそらくロバットが初めて見る料理である、“甘くないプリン”だ。
「これは……?」
自他共に認める美食家であるロバットも戸惑いを隠せない。
なにしろそれは器に入ったままのプリンに見える。
「私は“玉子蒸し”って呼んでる。
見た目はプリンに似てるけど、とにかく食べてみて?」
オフェーリアの作る料理でハズレはない。
ロバットはスプーンを取り上げ、ひと掬いして口に運んだ。
「!!これは……?!」
目をカッと見開き、目の前の玉子蒸しを睨んでいる。
「私の故郷と交流のある、はるか東の国の料理なの。
食材で手に入らないものがあったので少しアレンジしてみたけど、案外私たちにはこの方が口に合うと思うわ」
玉子液の材料である『だし汁』を作るための素材が手に入らなかったため、コンソメスープを代用したのだがこれがよく合う。
具材はえびと春茸と生のピスタチオ。
表面には春菜を飾ってある。
「とても美味しゅうございます。
いや、そんな安易な言葉では言い表せませんな。
何という優しい味なのでしょう」
まるで愛しいひとを見るようなまなざしで、一気に食べきってしまった器を見ているロバット。
だが夕餉はこれからだ。
次にオフェーリアが取り出したのは揚げたてのコカトリスのから揚げだ。
彼女はそれに大根おろしとポン酢を添えた。
「から揚げはそのまま食べてもいいけど、大根おろしといっしょに食べるとか、ポン酢をかけるとか、全部一緒に食べるとか色々やってみて」
そう言ったオフェーリアはひと通りやって見せて、ロバットに勧める。
……から揚げは以前と変わらない。
彼も家の料理人や懇意にしているシェフに頼んでオフェーリアの味を再現しようとしたが、悉く失敗して頓挫していた。
今口にしているのは夢にまでみたから揚げだ。
「美味い……この味、どうやっても出せなかった」
目に涙すら浮かべているロバットが大袈裟だと思うオフェーリアだが、このから揚げを食べたものは多かれ少なかれ虜になってしまうのだ。
あっという間に一個食べたロバットはオフェーリアがして見せたように、次は大根おろしをのせて噛み締めた。
「!!」
たっぷりの油で揚げたから揚げは美味しいが胃にくる。
もうそれなりの年齢のロバットも例外ではなく、すぐに満腹になってしまうのだが、この大根おろしと共に食べると驚くことに胃がすっきりしてまた食べられるようになった。もちろん味も絶品である。
そして“ポン酢”も、まるで最初からから揚げとセットのように思える調味料だった。
そしてすべてをいっしょにして食すれば、その結果は推して知るべしである。