『昔なじみ』
「で、今後はどうするつもりなんだ?」
マティアスが朝食の場で聞いてくる。
隣では【ぼくちゃん】が器用にフォークを使ってスクランブルエッグを食べていた。
「おそらくツブネラアロンの開花時期はあと少ししか残されてないわ。
今日はオークションの方に行くけど、明日からは【ビドー】の方で動くつもり。
例の商人のところに行って詳しく話を聞いて、できれば情報を持っている知人を訪ねるつもりよ。
なので今夜は帰って来れると思うけど、明日からはどうなるかわからないわ」
話の内容をわかっているのだろう。
【ぼくちゃん】は何となく元気がない。
「わかった。
【ぼくちゃん】のことは任せておけ。
俺はしばらくここにいるし、皆もいる」
【ぼくちゃん】もフォークを置き、目をうるうるさせながらも頷いている。
「ママ、がんばるからね」
「本当はこんな事をしたら駄目なのですがね、フェリア様には世話になりましたし」
昨日も訪れた商業ギルドのオークション部。
そこのロバットの執務室で2人は向かい合っていた。
「これは……」
差し出されたのは一枚の紙だ。
「私が追えるだけ追った【ツブネラアロン】の出品者です。
ただ時間がなかったので、名前とその当時の連絡先だけですが。
……もし運が良ければ、話が聞けるかもしれません」
商業ギルドの立場あるものが本来なら決してしてはいけない事だ。
懲罰ものの行為だがロバットは昔の“借り”に報いる為に危険を犯した。
「ありがとう。
どうお礼をしたらよいのか……」
「ではあなたの手料理をご馳走して下さい。
……もう昔ほどたくさん食べられませんが、今でもあの頃を思い出します」
ロバットも人族としては老齢の域にある。
そろそろ潮時なのだ。




